経済分析
Aug 15, 2024

【2024年夏】日銀利上げとドル円相場の振り返り

日銀は利上げを決定、
米景気悪化懸念と日経平均株価の大暴落

日本銀行は7月31日の金融政策決定会合で、年内2回目となる追加利上げを発表し、市場は動揺しました。2024年7月はドル円相場にとっては転機となった1ヶ月でした。

円高が急速に進み、ドル円相場は161円から141円へと、およそ半月で20円(2000Pips)の下落となっています。

番号1・・2000Pipsの下落

さらに、米経済も陰りが見え始めています。

米経済指標が軒並み悪化し、これまで株価をけん引してきた米ハイテク企業の決算が悪化しました。「AIバブル」が終わったと考えられるでしょう。

米雇用統計も悪化し、失業率が上昇しています。

もちろん、さまざまな要因が雇用統計に反映されるため、現時点では米景気悪化と結論付けることはできません。しかし、実際には株価の下落、急激な円高という形で市場に影響がでています。

この記事で、7月上旬から8月上旬までの相場環境の変化、ドル円相場の推移を振り返ってみましょう。

記事のポイント

・日銀の追加利上げの背景

・日本と主要国の金融政策の方向性

・米景気悪化懸念

・日経平均株価の乱高下

日銀は追加利上げを決定

ポイント:
日本は政策金利を0.25%に引き上げ、大規模国債買い入れ減額方針具体案と同時発表

政策金利は0.25%に引き上げられ、同時に大規模国債買い入れ減額の具体案も示されました。同時発表は市場にとってはサプライズです。

植田日銀総裁は市場予想を上回るタカ派的な姿勢を見せ、物価が想定内で推移する場合、0.5%の壁を意識せずに追加利上げを検討する意向を表明。

上記の決定により、日銀は金融引き締め方針であることを示唆しています。

消費が弱い中でも利上げするのはサプライズ

ポイント:
日本は物価上昇も、消費が弱い経済

政府総務省が公表している「消費者態度指数」では「消費者態度指数の動きから見た7月の消費者マインドの基調判断は、改善に足踏みがみられる」と記載されています。日本では物価は上昇しているものの、消費が弱い傾向が続いている状況です。

一般的に、政策金利の利上げはさまざまな企業活動・家計に影響を及ぼし、経済活動を抑制する機能があります。しかし、植田日銀総裁は「個人消費は物価上昇の影響などがみられますが、底堅く推移していると判断」し、「賃上げの動きが広がってきていることが確認」されたと述べています。

さらに、「わが国の経済・物価は、これまで展望レポートで示してきた見通しに概ね沿って推移」しているとコメントし、「これまでの為替円安もあって、輸入物価が再び上昇に転じていまして、物価の上振れリスクには注意する必要」があると円安を意識した発言もしています。

上記のような経済状況の中、市場関係者は「政策金利の据え置き」を予想していました。大規模国債買い入れ減額の具体案も発表され、今回の発表は大きなサプライズとなったのです。

主要国の中で金融引き締めは日本のみ

ポイント:
為替市場では利上げ期待が高い通貨が買われやすくなる

主要国は2~3年前から積極的に利上げ政策を実施してきました、高金利政策によって景気が抑制され、インフレも落ち着いてきたと各国中央銀行は判断しています。

スイスやEUはすでに利下げを実施しており、8月現在で最も注目されているのは米国の利下げ開始時期です。欧米各国が「利下げ政策」に転換しつつある中、日本は利上げ政策に転換しつつあります。

為替市場では、利上げ期待が高い通貨が買われやすくなる傾向があります。

2022年ごろから続く円安基調は、政策金利が高くなると予想された主要国の通貨が積極的に買われ、政策金利の変化に期待がなかった日本円が売られ続けてきたことで形成されました。

上記はドル円の週足チャートです。
番号1番は2021年1月から2022年10月です。2021年1月から各国でインフレ率が上昇しはじめ、政策金利の引き上げに関する期待が高まっていきました。

2番の時期は、2022年10月から2022年10月に該当します。この時期は米利下げ観測が高まったため、151円台から127円台まで下落しました。しかし、その後、米国のインフレが根強く景気も底堅いことが意識されます。

3番の時期は2023年1月から2023年7月上旬が該当します。米国の高金利政策が続きそうだという見方が圧倒的な時期でした。

このように、ドル円相場は、米政策金利の引き上げ期待が高まるにつれて上昇し、引き下げ期待が高まるにつれて下落しています。円高の要因の1つとして、「日本と主要国の政策金利の方向性の違い」があるでしょう。

今後、政策金利が下がると見込まれる国の該当通貨、つまり、米ドル(USD)・ユーロ(EUR)・カナダドル(CAD)・豪ドル(AUD)などは売られやすくなり、政策金利が上昇する期待感が高い日本円(JPY)は買われやすくなると予想できます。

為替市場では円高がすすむ

為替市場では、最近の日銀の政策変更を受けて急激な円高が進行しています。7月11日、12日の為替介入をきっかけに、ドル円相場は161円から158円台へと急落しました。

ダブルトップを形成し、その後も下落していましたが、日銀の利上げ発表を受けて150円の大台を割り込む展開となりました。

植田日銀総裁が、物価が見通しに沿う限り上限を意識せずに利上げを実施していく方針を示したことで、円高傾向に拍車がかかりました。その結果、ドル円相場は150円を割り込み、146円台まで下落しています。

米景気悪化懸念

ポイント:
米景気悪化で利下げ期待が高まり、ドル安圧力が強まる

米国経済の悪化懸念が市場に広がっています。

8月米ISM製造業PMI(購買担当者景気指数)の発表が米景気悪化懸念を市場に印象付けるきっかけとなりました。

4か月連続で景気縮小を示す数値となり、今回は予想外の下落となったのです。PMIの悪化を受けて、市場では米国景気の悪化に対する疑念が生じ、S&P500は下落で反応しました。

米雇用統計の悪化も重なり、米失業率が4.3%に上昇したことが報告されました。

加えて、米ハイテク企業の大幅な減収や期待外れの決算発表が相次ぎ、投資家のセンチメントに大きな変化が生じました。

複数の悪材料が重なり、米国の主要株価指数は軒並み下落しました。市場の不安心理を示す「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数は一時36.8まで上昇しました。

VIX指数が36を超えると、市場は経済危機の一歩手前と捉える傾向があります。

米国経済の不透明感と日本の金融政策の変更が相まって、為替市場では円高ドル安の傾向が強まっています。

日経平均株価が乱高下

ポイント:
日経平均株価がブラックマンデーを超え、
過去最大の大暴落

ブラックマンデーを超える過去最大の暴落

日経平均株価は、米国株式市場の急落に連動して大幅に下落しました。

利上げは株式市場にとって下落要因となります。企業の資金調達が困難になり、企業活動が縮小傾向に向かうためです。さらに、輸出企業の製品が海外で割高になり、販売量の減少につながります。

株価下落の複数要因が重なる中、米国の景気悪化懸念が市場を支配し、「売りが売りを呼ぶ大暴落」へと発展しました。

ブルームバーグの情報によると、6月末時点で信用買いポジション(レバレッジをかけたポジション)が4.9兆円と18年ぶりの高水準に達していました。この状況下で急落が起きたため、個人投資家は投げ売りせざるを得ない状況に追い込まれてしまったのです。

投げ売りの連鎖が下落を加速させ、日経平均株価は4400円近い下落を記録しました。これは12%以上の下落率となり、コロナが深刻化し世界経済がストップした2020年3月17日の11%下落を上回る規模です。

この未曾有の暴落は、コロナショックや世界金融危機と並び、将来特定の名称で呼ばれる可能性が高いでしょう。

日経平均株価が過去最大の上昇

驚くべきことに、過去最大の暴落の直後、日経平均株価は過去最大の上昇を記録しました。
暴落から2日後には3万300円の安値から5000円高の3万5000円付近まで急騰し、トレーダーは右往左往する相場でしたね。

金利上昇で通常は恩恵を受けるはずの銀行株も大幅に下落していました。これは、日経平均株価の急落により、投資家が証拠金の急減に直面し、資金を守るために銀行株を含む多くの銘柄を投げ売りせざるを得なかったためと考えられます。

この状況下で、投資家による押し目買いが入りました。結果として、多くの銘柄でストップ高が相次ぐ相場展開となりました。日経平均株価は乱高下を続けており、非常に不安定な状態が続いています。

日銀副総裁は、「不安定な相場環境のもとでは利上げを実施しない」とコメントしました。市場センチメントに配慮し、ハト派的な姿勢を示すことで、相場の安定化を図る意図が見られます。

今後の注目ポイント

副総裁の発言の影響もあり、ドル円相場は一時147円に上昇し、相対力指数(RSI)も30に回復しました。これは、一般的に上昇基調の開始や相場の一服を示唆します。

今後のドル円相場は、日米両国の金融政策や経済指標の動向に大きく左右されると予想されます。

特に注目すべきポイントは以下の3つです。

  • FRBによる利下げ幅
  • 日銀の追加利上げの可能性
  • 両国の経済指標(特に物価と雇用)の推移

前例のない相場の乱高下は、投資家や市場関係者に大きな衝撃を与えています。

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