2024年夏、クロス円相場は大きく下落しました。
ポンド円、ユーロ円、豪ドルの主要通貨ペアも軒並み下落しています。上記3通貨ペアは2024年7月11日に直近高値を付けた後、為替介入(1番)によって円買いが強まり、日銀の利上げ発表(2番)によって下落の勢いに拍車が掛かったのです。
例えば、ポンド円相場は以下のように推移しています。
コロナショックが発生した2020年以降、クロス円相場は一貫して上昇基調となっていましたが、2024年7月が転換期となりました。
ところで、為替相場で考えなければいけないのは「金融政策」です。金融政策の方向性は為替相場に大きく影響します。日米の金融政策については、よくニュースで報道されていますね。日本は7月末に利上げを実施し、米国は利下げ開始時期を模索している状況です。
詳細は以下の記事をご覧ください。
EU圏の経済政策を決定するECB、英中銀(BOE)は、政策金利の引き下げを既に開始しています。ただし、豪中銀は「金利据え置き」を決定しており、「インフレ上昇なら追加利上げも検討」と、タカ派姿勢を崩していません。クロス円相場は、日本と該当国の金融政策、加えて、米国の金融政策の方向性も考える必要があるなど、やや複雑です。
この記事では、主要クロス円相場の振り返り、各国の金融政策の動向、2024年7月上旬の相場環境の変化、今後のトレードポイントについて紹介していきます。
記事のポイント
ポイント:
各国は4~5%の利上げを実施、日本は0.20%の利上げのみ
クロス円相場は2020年のコロナショック以降に、円安トレンドが始まりました。コロナショックによる物流の混乱、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻によって各国でインフレ率、つまり、物価の上昇が激しくなります。
例えば、イギリスは、2022年10月に11.1%のインフレ率を記録しました。1ヶ月で10%以上物価上昇は異常です。1万円で購入できたものが1か月後には1万1000円になっているという状況だと、経済が疲弊してしまいます。通常、2%程度のインフレ率が理想とされています。
それで、各中銀は政策金利の引き上げを実施し、過剰なインフレ率を抑えようとしました。
下記のグラフは、2020年7月から2024年7月までの各国の政策金利の推移です。
コロナショックが発生した2020年3月当時、各国の政策金利に大きな金利差はありませんでした。
しかし、インフレ率が上昇したこと、コロナがある程度落ち着いたことから、2022年1月から、各国は政策金利の引き上げに金融政策を転換します。
特に、2022年~2023年にかけて、各国は大幅に政策金利を引き上げていますね。
一方、日本はマイナス金利政策を2024年3月まで継続しました。
為替相場では、金利が高くなると期待される通貨が買われやすく、金利が低くなると予想される通貨が売られやすくなります。
ポンド円やユーロ円、豪ドル円の上昇基調に勢いが付いたのも、2022年~2023年です。
2020年からの各通貨ペアの情報をまとめてみます。
金融政策の方向性の違いにより、クロス円は一貫して上昇しました。ポンド円は1.6倍、ユーロ円は1.5倍、豪ドルは1.8倍の価格水準になっています。
日本は金利が非常に低く、緩和姿勢を維持し続けたため、2022年~2024年のほとんどの期間は「円安=円売り」となったのです。また、金利差だけではなく、個人投資家による円売りも拍車をかけ、急騰する結果となりました。
では、次の章で、通貨ペアごとのチャートを見ていきましょう。
ポンド円は、2020年3月から2024年7月までの4年4ヶ月で約84円(8400Pips)上昇しました。ポンド円は2024年7月に208.10円と、リーマンショック前の2008年以来の水準を記録しています。
特に2023年1月から円売りポンド買いの動きが強くなり、157円から207円まで急激に上昇しました。
ユーロ円は、ユーロの流通が始まって以降で最も最高値である172.42円まで上昇しました。リーマンショック前の2007年の高値を超える水準です。ECBは日本と同じくゼロ金利政策を長期間実施していましたが、2022年7月、利上げ政策に転換しました。
利上げ政策に転換以降、日本との金利差拡大によって、円売りユーロ買いが強まり、勢いよく上昇していきました。
豪ドル円は2007年以来の水準となる109.37円まで上昇しました。豪ドル円は日本との金利差拡大の他、資源価格の上昇という要因もあり、コロナショックで付けた59.89円から109.20円と、2倍以上の円安水準となりました。
上昇相場から一転し、2024年7月11日を境にクロス円相場は急落し始めました。
各通貨ペアの下落率は以下の通りです。
下落の主な要因は2つ考えられます。
・為替介入による急激な円買い
・円キャリー取引の巻き戻し
順番に考えていきましょう。
2024年後半、主要国の中央銀行は金融政策の方向性を大きく転換しつつあります。
各国の状況を見ていきましょう。
イングランド銀行は2024年8月1日、2020年以来初となる0.25%の利下げを決定し、政策金利を5.0%に引き下げました。しかし、9人の委員のうち5人が利下げ支持、4人が据え置き支持と意見が分かれており、慎重な姿勢が続いています。
英中銀総裁は慎重な姿勢を崩さず、インフレが再燃しないように会合ごとに決定するとコメントしています。
英CPI上昇率は依然として高く、BOEは年末までに2.7%まで上昇すると予想しています。
市場は今後0.35%の追加利下げを織り込んでいますが、慎重に実施される見通しです。
ECBは2024年6月に0.25%の利下げを実施し、政策金利を4.25%に引き下げました。市場関係者は、2025年末までに計6回の利下げが行われ、政策金利が2.25%まで引き下げられると予想しています。インフレ率の低下が予想される中、すでに利下げサイクルへの転換が始まっています。
そのため、長期的にはユーロ売りが強まる可能性があるでしょう。
ただし、日本は日銀副総裁のハト派発言を受けて利上げをしにくくなっています。
今後、ユーロ円は154.40円を割り込むかに注目です。
豪準備銀行は金利を4.35%に据え置いています。総裁はインフレ再燃を懸念しており、追加利上げも辞さない姿勢を示しています。年内の利下げには否定的な見解を示しており、イギリスやEUよりもタカ派的な見通しです。
これらの動きは、各通貨ペアに影響を与えています。
日本銀行の年内追加利上げの可能性が低下している中、ポンド円は下落と反発を繰り返す可能性があり、ユーロ円は下落基調になる可能性が高いとされています。
一方、豪ドル円は、日銀の追加利上げがない限り、上昇圧力がかかる状態が続くと予想されています。
今後の為替市場は、各国の金融政策の微妙な差異に大きく影響されることになりそうです。